2016年 06月 04日
趣味と芸術 |
趣味と芸術という、何とも羨ましいタイトルの展覧会を見てきました。
ニューヨーク在住の写真家 杉本博司を知ったのは、昨年春に「杉本文楽」を観に行ったときのことです。 人形浄瑠璃「曾根崎心中」を新しい解釈で見せ、映像を取り入れることなどで斬新な演出をして話題となりました。
京都岡崎の細見美術館へ友人たちと出かけたのは、6月に入ったその日、湿気もなく爽やかな風が吹く日でした。 京都モダンテラスでランチをとり、久しぶりに足を運んだ細見美術館は、杉本博司の研ぎすまされた審美眼に満ちあふれていました。
骨董のコレクターでもある氏は、平面のものを表装し、立体と組み合わせて見事な世界観を表していました。
(上)第二次世界大戦時、硫黄島で玉砕した栗林中将の司令室から、米兵が持ち帰った地図の背後には、日の丸を思わせる赤があります。 それは地図から大きくはみ出していて、抗うことのできなかった悲劇を際立たせていました。 静かな反戦と、平和への希求が込められているかのようです。
(中)建築家 白井晟一氏の書「瀉嘆」(しゃたん)。 墨色の濃淡の表装が、深い嘆きの様を表しています。 その前には法隆寺伝来の百万塔が置かれていて、哀しみを鎮める意味が込められているようです。
(下)白隠のすり鉢の画の前には、本物のすり鉢が置かれ、氏の茶目っ気がふと心を和ませます。 すっきりとシェイプされたすり鉢の美しいこと。 そのまま食卓に出せる道具はそれほどありませんから、うつわにも勝るとも劣らない存在感です。
と、こんなふうに、高い美意識に裏打ちされた杉本博司ならではの、取り合わせの妙が楽しめる展覧会でした。
自然の中で暮らしていても、こうした時間が絶対に必要です。 なぜなら、自然から得られる幸せがあるのと同時に、自然が奪ってゆく感性があるからです。
ときおり街へ出て、いろいろなものに触れることが私の仕事をには必要なのです。 少々大袈裟かもしれませんが、そうなのです。
美術館をでたあとは..... もちろんお茶の時間です。 豊潤で爽やかなタルトタタンをいただいて、お喋りも尽きず楽しいひとときが過ぎてゆきました。 これもまた、必要な時間なのです。
by galleryfabrile
| 2016-06-04 22:52
| 出かける
|
Comments(0)